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横浜地方裁判所 平成11年(行ウ)9号 判決 2000年5月24日

原告

高橋國雄(X1)

高橋千代子(X2)

被告

川崎市固定資産評価審査委員会(Y)

右代表者委員長

戸張道也

右訴訟代理人弁護士

國重愼二

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第五 争点についての当裁判所の判断(証拠の記載のある事実は主にその証拠により認定した事実である。)

一  第二年度における例外事由としての「特別の事情」の内容

1  解釈の指針

前記第三の二1ないし3の制度によれば、第二年度における固定資産税の課税標準は、原則として基準年度の登録価格と同一となるのであるが、そのようにしたのは、固定資産の価格が通常は短期間に大きく変動するものではなく、他方で固定資産の数が非常に多いので、毎年固定資産の価格を評価して決定することとはせずに、同一固定資産については三年間は価格を同一としても、それほど正確性に反することはないと考えられたためである(〔証拠略〕)。すなわち、同一固定資産の経年による価格の変化を正確に把握することを多少は犠性にしても、課税事務の簡素合理化を図ることに、総合的な観点から合理性があるという政策判断をしたためと解される。

したがって、例外としての「特別の事情」の解釈に当たっても、このような観点を念頭に置く必要があり、課税事務の簡素合理化を犠性にしても課税標準の正確性を確保する必要が生じたというようなある程度大きな価格の変動要因があったときに、例外の適用があるとの指針を持つ必要があると解される。

また、例外事情に該当した場合においても、「類似する土地又は家屋の基準年度の登録価格に比準する価格による」こととされ、第二年度において基準年度と同様に固定資産の価格を正確に決定することまでは要求されておらず、なお課税事務の簡素合理化の方向性は維持されているといえる。そうすると、「特別の事情」の内容を解釈するに際しても、当該土地家屋が他の土地家屋に比準しやすいという点を考慮する必要があり、価格変動要因が数量的に比準しやすい定型的な態様のものであることが予定されていると解される。

2  例外要件の内容

以上のような基本的な指針を背景にして、具体的な規定文言に注意すると、土地については、例示として地目の変換だけが挙げられている。そうすると、基準年度と同一にすることができない程度に当該土地に大きな価格変動要因があったこと、その変動は価格決定面で数量的に比準しやすいような態様の定型的なものであること、例示としての地目の変更その他これに類するものであることが必要であり、例えば、分筆若しくは合筆、浸水、土砂の流入、隆起、陥没、地滑り、埋没等被告の挙げるものは、「特別の事情」に該当するといってよいと思われる。

同様に家屋について見ると、例示として家屋の改築又は損壊が挙げられている。そうすると、基準年度と同一にすることができない程度に当該家屋に大きな変動があったこと、その変動は数量的に比準しやすいような態様の定型的なものであること、例示としての家屋の改築又は損壊その他これらに類するものであることが必要であり、例えば、増築は、「特別の事情」に該当するといってよいと思われる。

3  例外要件のまとめ(「その他これらに類する特別の事情」の趣旨)

被告は、標記について、いくつかの例を挙げた後、それらをまとめて、土地又は家屋自体に内在する原因により、土地又は家屋の価格に大幅な増減をもたらしたような事情をいうと主張する。しかし、このうち、内在する要因という文言の示す内容がややわかりにくいといわざるを得ない。そこで、このようなまとめ方が相当かどうかは、留保することとするが、少なくとも前記2のものは、「特別の事情」に該当する事由といってよいと思われる。

二  日照阻害と第二年度の例外事由の該当の有無

一においては、規定文言から「特別の事情」の意味を探る作業をしたが、二では、日照阻害が「特別の事情」に該当するかという、いわば逆の見地から検討を行うこととする。

1  まず、仮に被告が一3でまとめるような土地又は家屋自体に内在する要因に該当するかどうかが解釈上の基準となるとした場合でも、本件で問題となっている日照阻害がその内在する要因に該当するかどうかを判定することはいささか困難である。

すなわち、日照阻害は隣接建物によってもたらされることに着目すると、本件土地又は家屋自体に内在する要因ではないものといえるが、隣接建物が建築された後は相当長期にわたって、日照が阻害されることは、本件土地家屋の属性のようになるので、観点を変えると、これをもって内在的ともいえそうであるからである。また、土地の浸水、隆起、陥没、家屋の損壊といっても、要因は、当該土地・家屋自体の内在的要因によるのではなく、自然等の外部的要因によるという見方もできるからである。

2  そこで、本件における日照阻害が「特別の事情」に該当するかの問題について、規定文言に戻り、基準年度と同一にすることができない程度に当該土地又は家屋に大きな価格変動要因があったこと、その変動が価格面で数量的に比準しやすいような態様の定型的なものであること、その変動が例示としての地目の変更、家屋の改築又は損壊その他これらに類すること、という要件を満たすかどうかの観点から考えることとする。

まず、基準年度と同一価格とすることができないほどに大きな価格変動要因があるかという点から考えると、本件の日照阻害による本件土地家屋の固定資産価格の変動の大きさは少なからぬように見える(〔証拠略〕)。ただし、隣接建物も建築確認を取得している(〔証拠略〕)のであるから、違法建築というわけではない。ところが、右の変動が価格的に比準しやすいかという観点からいうと、日照阻害は、本件土地家屋の場合を含め、一般に、それぞれにつき個別に方位、隣接建物の位置、形状等を正確に計測して、図面を作成するなどしないと、影響を正確に判定できないのであり、前記のような土地の浸水、隆起等に対比すると、個別的に扱う必要が高く、他のケースに比準することがしにくい価格変動要因であるといわざるを得ない。また、日照の阻害が、例示としての地目の変更、家屋の改築又は損壊に類するかというと、着眼点にもよるが、類するというのはやや無理があるというべきである。

そうすると、第二年度の固定資産税の課税標準は、原則として基準年度の固定資産税の課税標準によるところ、本件土地又は家屋に日照阻害が加わったとしても、それは、原則の例外としての「特別の事情」に該当するということはできないというべきである。

3  原告らの主張について

(一)  原告らは、「基準年度である平成九年度においては、本件土地及び家屋の実地調査は行われていない。したがって、基準年度の登録価格が適正であるというのは架空のことであり、これに基づく第二年度(平成一〇年度)の『特別の事情』の主張は前提を欠く。」旨を主張する。

しかし、第二年度の課税標準を基準年度の登録価格によるというのは、前記のとおりの租税事務の簡素合理化という政策判断によるものであり、第二年度の課税標準は、法三四九条二項一号にいう「特別の事情」がない場合には基準年度の価格が正確であるかどうかを問わず、その価格によるというものであり、基準年度の価格によって第二年度の課税標準を定めることについて、基準年度の価格が正確であることは要件とはされていない。そして、法は、基準年度の価格が正確かどうかは、別途基準年度の価格の決定自体を争う過程で定まることとしていると解される。よって、原告らの前記主張は採用することはできない。

原告らの場合についていえば、隣接建物の建設の完了したのが平成八年暮れであり(〔証拠略〕)、原告らとしては、本来なら原告らの本件土地家屋について平成九年一月一日の基準年度についての賦課期日における価格決定の段階で隣接建物による日照阻害について必要な補正が施されるべきであるとして、争うべきであったことになる。この点を現時点で問題としようとしても、行政事件訴訟法一四条に定める出訴期間の制限という別個の問題があり、現実には困難である。そうすると、基準年度の価格決定の違法を現時点でそれ自体として争うことはできないまま、第二年度の価格についてその基準年度の価格によらなければならないわけである。しかし、このような結果は、行政行為に一応の有効性を付与することで行政を安定的に進めること等を目的とした出訴期間の制度等によるものであって、右制度にはそれなりの合理性があるから、それもやむを得ないといわざるを得ない。

(二)  原告らは、「『特別の事情』の意味は、固定資産の有する価値そのものに着目するという原則に基づき、課税対象につき、地目の変換とか家屋の損壊等に類する程度の財産の減額の事情があるかどうかという観点から行うべきである。」と主張するところ、この点は首肯できる。そして、「『特別の事情』とは、その土地に内在するかどうかではなく、その土地を見れば一目で減価事由があるかどうかが分かる事情が生じた場合をいうべきである。」というところも、ある意味で首肯できる。しかし、「そうすると、日照阻害は、その土地自体に生じた減価事由であり、『特別の事情』に該当する。」とする点は、2のとおりの法三四九条二項一号の解釈及び日照阻害の性質に照らし、首肯することができない。

(三)  原告らは、「自治事務次官通達によれば、所在地域の状況によりその価値が減少すると認められる木造家屋等については、その減少する価額の範囲において減額される。したがって、通風、採光、生活様式への不適用、日照阻害という不良住宅地域となる事由がもたらす需給事情によって取引価値を減少された場合は、当該固定資産の価格は減価されるべきである。」旨主張する。右主張は、基準年度の固定資産の価格の決定に際しての考慮要素とすれば、それなりに相当であるが、第二年度の価格決定においても当然に考慮すべきとするのは相当ではなく、その意味で右原告らの主張は採用することができない。

もちろん、第二年度の価格を基準年度の価格によるとする政策は、固定資産の価格を正確に決定することをいくらか犠牲にして、事務の簡素合理化を図ろうとするものであるから、納税者に不利となる方向、すなわち、第二年度において価格が下がっているのにもかかわらず基準年度の価格と同一とすることは、本来決して望ましいことではない。したがって、第二年度においで、固定資産の価格の減額要素が生じた場合において、その事由が法三四九条二項一号に規定する「特別の事情」に明らかに当たらないとはいえないときには、基準年度の価格によるのではなく、新たに類似土地の価格に比準させるとか、新たに基準年度の価格決定の場合と同様に価格を決定されるとすることは、取り扱いが区々にならないように公平に運用されるならば、事務簡素化よりも本来の目的に適ったこととして、許される余地もあると解される。原告らが聞いた自治省の担当者の説明(〔証拠略〕)は、基準年度でなく第二年度でも、評価審査委員会にともかく申し立てて価格を見直すことは可能であるということであるが、それは、右の趣旨に解されるところである。これを要するに、評価審査委員会及び市町村長が第二年度において生じた日照阻害の変化を踏まえて新たに価格の決定をすることも、取り扱いが区々にならない限りは、違法ではなくも望ましいこととすらいえる場合もあると解されるが、さりとて、そのようにまでしないで基準年度の価格と同一にしても、地方税法上は違法ではないというべきである。

しかも、本件土地家屋については、基準年度の賦課期日に日照隆害が生じたという事例であって、第二年度になって初めて隣接建物による日照阻害が生じたという事例ではないのであるから、(一)の制約を受けることになり、単純に右のようにいうことはできないところである。

4  そうすると、原告らの被告に対する審査申出の事由は、地方税法上第二年度において価格を改めるべき「特別の事情」には該当しないといわざるを得ず、本件却下決定に違法はないというべきである。

なお、この点に関し、被告は、右審査申出事由が法四三二条一項に定める申出事由に当たらないとして原告らの右審査申出を却下している(〔証拠略〕)が、同条同項は、基準年度の土地課税台帳等又は家屋課税台帳等に登録された価格をもって第二年度の登録価格とみなされる土地又は家屋の価格について、法三四九条二項一号に掲げる事情があるため同項ただし書等の規定の適用を受けるべきものであることを申し立てる場合を除いては審査の申出をすることができない旨定めるのみであるから、何らかの事情を指摘して法三四九条二項一号に基づき同項ただし書の規定の適用を受けるべきことを申し立てれば、当該事情が同号に該当するかは本案で判断すべき事由というべきである。したがって、被告は、原告らの審査申出を棄却すべきところ、これを誤って却下したということになるが、本件却下決定の決定書(〔証拠略〕)を見ると、右の法三四九条二項一号該当性についての実質的判断はされていて結論部分のみが却下とされているにすぎないから、実質的に原告らに不利益を与えるものではなく、右の点は本件却下決定を取り消すべき瑕疵にはならないというべきである。

三及び四〔略〕

(裁判長裁判官 岡光民雄 裁判官 近藤壽邦 平山馨)

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